10月9日号 『ウインク大流行』
先日、とある地方都市(って、埼玉県は岩槻市だが)のデパートで開かれていた幼稚園児の絵画展を眺めることになった。確か、母の日に母親のために描いた絵、というふれこみだった。自分でも絵を描くのが好きだから、子供の絵を眺めるのが好きだ。枠にとらわれない表現も楽しければ、子供らしい視点が刺激にもなる。実際、子供の頃に自分が描いた絵(母親がコツコツ保存していた)を今になって眺めると、「よくこんなものを見つけて描いたな」とびっくりすることがある。
で、展覧会を眺めた。そうしたら、奇妙なことに気づいた。展覧会は、市内約十カ所の幼稚園から作品を集めて開かれていた。ところが、女児の描く母親の顔の八割方が、同じなのだ。子供の描く母親の顔だ、似通っていたところで不思議はない。しかし、そこに見られた傾向は「似通った」などというレベルははるかに超えて、まるで申し合わせたかのように「同じ」であった。思い出して描いてみると、以下のようになる。
丸顔に両側で束ねた髪型は、まあよろしい。みんながみんなこんな顔に髪型だとは思わないが、今幼稚園に通う子供のママなら、年齢も知れる。丸顔好きのわたしには何ら問題はない。ってそういう話でもないような気がするが。
問題は、ウインクなのだ。これが本当に不思議なほど、みんながみんな、ウインクしているのだ。ひとつの幼稚園だけに見られる傾向ならば、誰かがたまたま描いたウインクがカワイイ、と言い出した女児たちが右へならえで自分のママにもウインクさせたのだろうと思えばいい。しかし、地域的にはまったく関係がない、しかもおそらく描いたタイミングも異なるはずなのに、ウインクしたママがそこら中に溢れている。なんだ、これは!とワタシは思った。
そういえば、と思い当たるフシがあった。昨年の夏、筑波サーキットへ行く途中で入った茨城県のマクドナルドで開催されていた幼児の絵の展覧会でも、ウインクしたママやら「ワタシ」やらがあふれかえっていた。そして、ウインクした女性の絵を描くのは必ず女児であった。どうやら、幼稚園女児の間では、気に入った女性はウインクしているものと決まっているらしい。しかもその表現はきわめて類似している。おそらくは何らかのマンガの主人公か何かがウインクでもしているのだろうが、奇怪な流行である。
この現象のみをもって「今どきの子供には個性がない」と怒鳴る気はない。が、個性が本当にない。というよりも、あまりにも容易にひとつの流れに乗ってしまうのが怖い。わたしが子供の頃にもつまらない流行が確かにあったが、ここまでやみくもでここまで従順ではなかった。いや、それ以前に、この流行に乗っているのが女児に限られるという点に首を傾げる。
「女性は作られる」と言ったのはヴォーヴォワールだったか誰だったか。女児は実は被害者で、幼稚園の段階ですでにねじ曲がった教育に晒されているということではないのか? 幼稚園教諭が圧倒的に女性で占められていることを思えば、実は「女性は女性によって作られている」のではないかタジマさん、いいのか?これで、と思いながら、わたしはウインクしていない絵を探し(本当に少ないのだ、これが)、無批判な流行の中であっけらかんと独自路線を貫いたアーチストに、輝かしい未来が広がることを祈ったものだ。