2月20日号 『ダイナビーの謎』
昨年後半から、仕事をしていて手持ちぶさたになると、「ダイナビー」と言う奇妙なトレーニング器を握り、グリグリ動かして手首やら握力のトレーニングをしている。というよりも、実際にはグリグリ動かすこと自体が目的で、トレーニングはたまたま結果としてついてくる副産物だ、と言った方が正しい。
こうやって、グリグリ。
元々ダイナビーをわたしに紹介してくれたのは、この業界の大先輩であるH氏で、確か昨年一緒に仕事をしたTIサーキット英田のプレスルームに持ち込んできたのではなかったか。わたしはそのしろものを、雑誌か何かの広告で見た記憶はあったものの、実際にどんな構造になっていてどんな効果があるものかは知らなかった。ところが、ある種のスポーツ、たとえば野球などをやってきた他の同僚は、一時期ダイナビーを実際に使っていたと懐かしがった。少なくともおよそ15年ほど前には、様々な方面へ普及していたようだ。(現在どうなっているのかは知らない)
目の前で模範演技を見せるH氏の様子に乗せられて、わたしも試してみた。するとこれが実に巧妙に出来ており、うまく動かすためにある種のコツを要求するのだが、そのコツを会得すると動き出して、今度はなんともいえない手応えを返してくれる仕組みになっている。工夫と努力が快感という成果としてすぐ返ってくる。その間に筋肉トレーニングが勝手に進むという、なかなか優れたシステムなのだ。この感触が忘れられなくなったわたしは、昨年暮れ鈴鹿サーキットの取材に出かけた折、平田町の大ショッピングセンター、ベルシティに出かけ、スポーツショップでダイナビーを見つけ出して購入した。確か2千円前後くらいの値段ではなかったか。
全景。緑がボディ、黄色がローター。
ダイナビーの構造は簡単だ。球形のプラスチック製ボディの中に、1本シャフトが串刺しになった球形のローターが入っており、シャフトは、外側のボディ内側、いわば赤道の部分の内側に1周にわたって彫り込まれたミゾにはまっている。つまり内部のローターはシャフトを軸にボディ内部で北極から南極へ向く縦方向に回転しつつ、シャフトもろともボディの赤道に沿って水平にも回転する仕組みになっている。要するに、ジャイロスコープ、あるいは地球ゴマを思い浮かべればよい。
まず最初は起動用のヒモを、上の写真では黄色のローターを縦断するように見えるミゾに巻き付けて引っ張り、ローターに回転のきっかけを作る。もしそのまま放置すれば、当然軸受けの転がり抵抗やらローターの空気抵抗やらで回転は徐々に弱まって止まってしまう。ところがボディ全体を手で握り、手首を軸にして手を回転させるように動かすと、ロータが赤道に沿って水平回転も始め、手の動きとなんらかの同調をした場合には、手応えとともにローターの勢いが増すのだ。タイミングを取るのが上手で手首の筋力がある人間ならば、どんどんローターの回転を上げることもできれば、延々と回転を継続させることもできる。
ローターの回転数が増す際の手応えは、おそらくはいわゆるジャイロ効果が生み出すもので、独特の重みとして手に加わる。これがなんともいえない感触で、気持ちが良く達成感を味わうことができる。なんでも「毎分8千回転のパワー」がダイナビーのうたい文句らしく、レーシングエンジンの回転域に近いことが、こうまでわたしの感覚を刺激するかななどと勘ぐったりもしている。
黒い滑り止めゴムが赤道にあたる。
ただし、わたしは単純に達成感を味わいながら回して筋力トレーニングをするために自分用のダイナビーを購入したわけではない。TIサーキットで試してからというもの、なぜダイナビーは回転を続けるのか、手首から与えたエネルギーはどうやってローターに伝わっているのかが気になって仕方がなかったからなのだ。
で、あれから3か月、仕事の合間にグリグリ回しながらあちこちから眺めて考えてみたが、結局はダイナビーはなぜ回り続けなぜ回転が上がるのか、その原理を言葉で説明しきれないままでいる。おそらくはボディの赤道内側に掘られたミゾと、ローターのシャフトの間に生じる摩擦力が何らかの回転力を作り出しているのだろうというところまではたどりついたものの、その先の説明をするだけの物理学的素養がどうもわたしにはなさそうなのである。