本文:
 フォーミュラニッポン開幕戦の予選で、サーラ・カバナに進路を塞がれてタイムアタックに失敗したある選手が、S字でカバナを抜いた途端嫌がらせの急減速をしたのを目撃した。カバナは慌てて4輪がロックして白煙が上るほどの急ブレーキをかけて追突を避けたが、まさにアワヤ、という光景だった。嫌がらせは許されるべきではないが、カバナの走りはそれ以上に危険だったから、気持ちは良くわかった。

 それにしてもこのカバナ。F1目指して日本で修行するとか言いながら、大事な鈴鹿のテストはパスするし、富士でおっかなびっくり走っただけでルーキーテストを強行突破、初めての鈴鹿、初めての日本のトップフォーミュラへ出走するんだから、よほどの選手かと思ったら、アマチュアにようやく第二次性徴が出始めたレベルなんだもの。ミラーを必死で見ながら走り、手を上げて進路を譲るなどお行儀は良いのだが、基本的な速度が低すぎるから追い抜きはいつも接触寸前、そのたびに観客はアワヤのスリルを味わって高い入場料の元がとれるという、迷惑なんだか有り難いんだかよくわからない走りを繰り広げるのだ。Fニッポンも舐められたもんだよなあ。

 公式予選でカバナが記録したタイムは1分58秒725。ポールから14秒遅れ、本来の予選通過基準タイムよりも4秒も遅くて本来は完全に予選落ち。本人も予選終了後に「コースに慣れなくてこれが精一杯」と語っちゃって話が終わるはずが、なぜだか超法規措置により決勝のグリッドに並んじゃった。もうカバナの前に規則は存在しない。ぼくは思わず叫んだね、「そんなカバナ」と。.....ごめん。 で、後日インターネットでカバナのホームページを覗いたら言いぐさが奮っていて「慣れないコース、慣れないタイヤにもかかわらず出走25台中20位で見事予選通過」って胸張ってるんだから、どうやら幻覚でも見ながら走っている様子。あんた、ニッポン人を舐めるにもほどがあるって。

 それにしてもなぜこんな輩が天下のFニッポンのグリッドに並べるんだかわからない。で、しかるべきスジにも問い合わせたのだが、ここで紹介できるようなまともな回答は返ってこなかった。おそらくは様々なシガラミがあるんだなと推察して納得する分別ある大人だからいいんだけどさ、ぼくは。

 でもそうなると、去年の開幕戦で首位から17秒280遅れだった山田政夫選手がバッサリ予選落ちを食らったのは何なんだ?14秒はOKで17秒はダメって予選通過基準はあるまいし、そもそも山田選手はカバナと違って日本のレースでそれなりの実績を残しているのだ。もし山田選手に問題があるとすれば、若いガイジン女性ではなくかなり年期の入ったニッポンのオジサンだという点だが、これが理由でカバナが良くてヤマダがダメだとなったのなら、そりゃ許し難きセクハラで植民地根性丸出しの判定というものだ。

 「去年の英国F2で4戦出走4位2回という実績がある」という触れ込みだったが、イギリスの記録を調べるとこれが怪しいったらありゃしない。1回6位入賞という記録は見つかるが、これは完走6台のダントツ最下位。出走5台というとんでもないレースが2戦ほどあって、(このうち1戦は完走3台だそうだ。合掌)これにカバナが出場していたのか手元の資料では確認できないのだが、そもそもこんなレースの4位入賞を実績とは呼ばない。敢えて数字にこだわれば、12台出走したあるレースで確かに4位を走行しているが、このときコース上にいたマシンは5台だけで、カバナの後ろにいたのはピットスタートで遅れた選手だった。カバナは結局この選手にも抜かれて5位、つまりビリになり、その後リタイヤした。これのことか?4位って。もう、オジサン、舐められっぱなし。

ぼくも若い女は大好きだから、ニッポンに来るなとは言わない。でも日本のトップフォーミュラを戦うには力不足なのは明らか。予選通過基準タイムで走れないのならば、、もう少しだから頑張ろうね、と厳しい態度で突き放すのが本当の優しさだと思うんだよな。自力で予選通過してこそ能力の証明になるわけだし、栄えあるFニッポンの権威も守られるというものじゃないか。

カバナは1999年だか2000年だかにF1進出したいんだそうだが、命短し恋せよ乙女。急がないと2シーズンや3シーズン、すぐに過ぎる。だからこそ我々は心を鬼にしてでもカバナに接するべきではあるまいか。ファンのみんなもカバナを見かけたら「F1目指して急げ! サーラ!」とカツを入れてあげような。特にコース走ってるときはよろしくね。


 
解説:
1996年、けったいな外国人選手が日本のレース界に現れた。その名をサーラ・カヴァナ(Sarah Kavanagh)といい、イギリス期待の女性選手でF1グランプリ目指し日本で修行する、というふれこみだったが、その実情はどうやら客寄せのために捕獲連行されたパンダだった。

それ自体は興業にはありがちな話で目くじら立てるほどのことでもなかったけれど、参加したのが日本のトップカテゴリーたる全日本選手権フォーミュラ・ニッポンで、しかも箸にも棒にもかからないお手並みで、周囲の有力選手に迷惑かけながら特別扱いされるので、温厚なワタシもついにキレた。で、書いた原稿がこれ。ガイジン女が客寄せになるという発想にも、なんだかその気になっちゃっている本人にも内心あきれていたのでまあ、口がというかペンがというかキーボードが滑る滑る。

レーシングオン誌上に発表したこの原稿はいつになく好評で、多くの関係者が苦々しく事態を眺めていたことがわかって嬉しかったが、この直後に当のサーラちゃんは予定を打ち切って帰国してしまったので、「オオグシ君が女をいびりだした」と先生に告げ口されて悲しかった。一方、とあるスジからは、ああいう批判はいかがなものかと抗議を受けたりもした。こちらが正論で反論したら「でも、興業を成り立たせるためには仕方ない」と本音を吐露される始末。ニッポンのオヤジの間に波風たててくれたよなあ、金髪は。

ところがサーラちゃん、タダモノではなくて、突然姿を消した彼女を追いかけて当時の彼女のWEBサイトを覗いたら、予選通過すら危ういオミソで2戦だけでおうちへ帰ってしまったにもかかわらず、「Fニッポンで大活躍して勇躍帰国」とかなんとかいうことになっていた。思わず脱帽、最敬礼したワタシであった。(もっとも現時点では一転、ニッポン参戦はなかったことにしたかったらしく、きわめて控えめな記述になっている)

ちなみに1999年になっても2000年になっても彼女はF1グランプリには現れず、2002年現在、いまだにWEBサイト上では「いくつのチームからオファーがあって、あとは金さえあればF1に行けるのに」と言い続けるばかり。サーラ! ねそべってばかりいないで、走っておくれ!
『走れ、サーラ!』