四号室  
サンプルその07  02年10月 葉山しおかぜ公園にて採取。

時折見られる、一の箸と二の箸が交差するタイプ。通常二の箸を固定し、一の箸を操作するところ、このケースでは逆転しており、一の箸は親指と人差し指で固定され、二の箸が親指と人差し指の付け根を支点に、中指と薬指で押し出されて動く。二の箸と一の箸との接点がひとつの支点として働く。というよりも箸の支持が不完全なため、もうひとつの支点が必要になり、結果的に箸を交差させて支点を増やさざるをえなかったということなのだろう。

中指と薬指は、一の箸によりかかる形になっている二の箸を「押し出す」。一の箸はこの「押し出し」を受け止める。この動作によって食品を挟む。箸の交差はこういう原理によって生じる。サンプルは、正しい箸の持ち方を形だけ真似ることはできる。しかしそれぞれの支持が不完全で食品を挟むことはできない。箸を持つという作業は、支点、力点、作用点からなるテコを組み合わせて成立するものであり、箸の持ち方のバリエーションは、テコの設定の違いから生じるということを思い知るケースである。
サンプルその08  02年10月葉山しおかぜ公園にて採取。

非常にオリジナリティのある持ち方。サンプルは女性編集者。聞けば幼少の頃、自宅の向かいにあった書道教室に近所つきあいの一環で通わされたとのこと。一の箸の支持には、筆の持ち方の影響が見られるように思う。基本は正しいところに着地しようとしているのだが、一の箸の持ち方がきわめて独特で、二の箸にまで影響を及ぼしている。

人差し指は一の箸を押さえ込むために第一関節で反り返り、中指もまた横向きに曲がってまで一の箸を支える。この角度から見ると、一の箸はまるで書道の筆に見える。それもかなり筆圧強いだろ、みたいな。これじゃ、一の箸のコントロールは不自由に違いない。しかし、それにしても珍しいケースだ。